コ—カサスのギュリオン人や中国のある地方では、
陣痛が始まると婦人はすぐ地面に横になり、
地面の上で子を生むそうです。
エイリティア、ダミア、オークセイア等の
誕生の女神の像の内の幾つかは、
子供を大地から真っ直ぐ取り上げるかの様に
膝まずいた女性の姿で描かれています。
アフリカ、オーストラリア、北インド、
北米インディアン、パラグアイ、ブラジル等に、
婦人が森の中で地面に座って産む儀礼が
見受けられると言われています。
ドイツの中世、ある種のユダヤ人社会、コーカサス人、
ハンガリー、ルーマニア、スカンヂナヴィア、アイスランド、
そして日本人の中にも同一の儀礼が見出されたそうです。
エジプト語では「地面に坐る」を
「産む」意味の通俗語とされます。
ある地方では子供は「大地から来る」と考えられ、
私生児は「土の子」とよばれました。
儒教では天を父とし地を母としますが、
大地を神聖なものとして扱う思想は
古代社会において普遍的なものであり、
大地から生まれる植物や子供も
神聖なものとして扱われたのでしょう。
モルダヴィニァ人は子供を養子にしようとするとき、
地の守護女神が住むとされる畑の中の溝に子を置き、
子供が新しくここに生れる儀式とします。
大地は子供の守護女神、すべての力の源泉とされ、
新生児はそこに住む母性的精霊に対して聖別されました。
赤ん坊を寝かせたり休ませたりするのに、
大地と直接に接して溝のなかに置くのは、
未開な社会のみでなくインカ等の高い文明にも
共通して見られるもののようです。
子供が生れた時に大地に横たえ、
真実の母親が正当と認め神助を保証するように、
病人を大地に横にしたり地中の溝の中に置き、
罪に祓浄や心身の病気を癒やして再び胎内から生れ出る
死と再生の儀礼も大地との関係で行われました。
大地を軽視した文明は自然を奴隷扱いし、
搾取対象として扱ってきましたが、
古代人の大地との関わりは神聖なもので、
昔の日本にもこの感性が存在していたなら、
大地の子である事を思い出す必要がありそうです。