北欧人の間では、ユール(クリスマス)は
死者の祭と豊穣と生命を讃える祭であったようです。
この季節は結婚と墓にぬかづく時節でもあり、
死者が生者の豊穣儀礼に参加するために返ってくる
生死の境界線にあたる節目とされていたようです。
死んだら終わりとする現代人的な感覚ではなく、
農耕のように死と新たな生が連続する
古代の世界観を反映した祭の痕跡は、
現代にも息づいているものなのでしょう。
スウェーデンでは女性の墓の中に入れる財産の中に
結婚の時のウエディング・ケーキの一片を入れ、
北欧諸国や中国では女性が花嫁衣裳を着て
埋葬される習慣が存在するそうです。
新婚の歩く途の上につくる「栄えのアーチ」は、
屍体を納める時に墓地に立てられるアーチと同一であり、
クリスマスツリーは結婚式と葬式の双方に用いられました。
ミトラに由来する太陽神の死と復活の祭典は、
人の生死の根底にも関わる祭であり、
死者は生者に恵みを与える存在ともされました。
黒い大地は死者をも意味しており、
農民は死者に農耕の祝福と支持を乞います。
ヒポクラテスは死者の精神は種子を
成長や成熟させると述べています。
風(死者の魂)は植物その他全てに生命を与えるとされ、
アラビアでは「年寄り」と呼ばれる最後の刈束は
畑の持主自身により刈り取られて墓に横たえられ、
「小麦は死から生あるものとして生き返るベし」
と祈祷して埋葬するそうです。
日本にも先祖崇拝が存在していましたが、
現代で考えられているより豊穣な世界観が
存在していた可能性は高いでしょう。
一年の節目に行われる霜月神楽である花祭も、
生死の本質に関わる意義があります。
過剰な欲望を追及して死を恐れる文明より、
古代人の感性の方が人としての豊かさを実感し、
安らかな死を迎えて生者に恵みを与える
生命の循環に関わる永遠性を感じられそうです。
生きる事の裏にある死と良い形で共存する
古代の祭の感性が失われた事と、
現代の精神的な病には関係がありそうです。
人として大事なものを思い起こさせる祭は
商業イベントで終わらせるには勿体ないですね。
今年のクリスマスには古代人の感性を思いだし、
生死を越えた命の循環を感じてみては如何でしょう。