熊野の地主神ソランジンの伝承には、
空海と関係するバリエーションもあり、
鷲林寺開起伝説にそれが見えます。
淳和天皇の勅願を受け観音霊場を開くため
弘法大師が広田神社で通夜をして拝んでいると、
化人が現れ西の方角に行くよう教えられます。
西の方角にある山にさしかかった時、
ここに寺を作られると人間が良心をおこして
言う事を聞かなくなると思ったソランジンが、
大鷲の姿で火を吐いて入山を妨げます。
空海は木を伐り六甲の山から湧き出る清水を用い
加地を行い大鷲を桜の大木に封じ込めると、
観音示現の地、汝の求める霊域はこの処なり。
汝しばらく礼拝せよ
と化人が告げるので礼拝をすると観音が現れ、
その姿を写して大鷲を封じ込めた桜の霊木に
十一面観世音菩薩を刻み寺の名を鷲林寺とします。
後に社を再建して白山権現を初めとした神々や、
八面臂の荒神を祭ったと伝承されています。
十一面観音や白山権現、荒神等は南朝に関わり、
やはり空海伝承にも色々と反映されていますね。
八臂荒神はやはり鬼道の八に通じそうですが、
魏志鬼八面大王や鬼祭の八角儀調場にも繋がる
鬼神祭祀が熊野の古層で行われたのでしょうか。
熊野修験と言えば九鬼氏の九鬼文書ですが、
ここに記されたウシトラコンシンの祭祀が
熊野でも行われていたと見れそうです。
鷲林寺開起縁起には八幡高良や栂尾明神も
同時に祀られる様になったと記されますが、
まだまだ隠された深層が存在しそうですね。
高良に関しては九州に痕跡があるので、
調べてみると面白い事が分かりますよ。
空海と熊野は直接的でなく縁者を通じて
かなり深くまで関係していますが、
真言密教ではなく天台密教系であり、
ダキニ天に連なる深層がありますが、
全て後世に悪者にされています。
陰陽道で最悪の祟り神とされたのが
艮の金神なのは有名な話ですが、
古の熊野においてもこの金神が
祀られた時期があったのでしょう。