漢水の女神3

漢水の女神の続きです。

余情悦其淑美兮、心振蕩而不怡。
無良媒以接懽兮、託微波而通辭。
願誠素之先達兮、解玉佩以要之。
嗟佳人之信脩兮、羌習禮而明詩。
抗瓊瑅以和予兮、指潜淵而爲期。

私の心はそのしとやかな美しさに悦び、胸は不安に震えて揺れる。
悦びを伝える良き術はなく、さざ波に託し言葉を届ける。
真心が彼女に伝わるよう願い、身に付けた玉を解きこれを求める。
ああ佳人の素晴らしきかな、奥ゆかしき礼をたしなみ詩に明るい。
美しき玉をかざして私と和み、深き淵を指さして契りをたてた。

執眷眷之款實兮、懼斯靈之我欺。
感交甫之棄言兮、悵猶豫而狐疑。
収和顔而靜志兮、申禮防以自持。

もてなされた慕情にとらわれ、女神が欺かぬかと慴れる。
甫が女神に約束を棄てられたのを思い、私はためらいに沈んで疑い嘆く。
顔を和やかに改めて心を静かにし、礼に従い自らを保った。

於是
洛靈感焉、倚傍徨。
神光離合、乍陰乍陽。
竦輕躯以鶴立、若將飛而未翔。
踐椒塗之郁烈、歩衡薄而流芳。
超長吟以永慕兮、声哀而弥長。

すると洛水の女神はこれを感じ、寄りかかって辺りをさまよう。
神の光は離れては近寄り、時に暗く時に明るい。
軽やかに体を伸ばして鶴のよう立ち、いまにも飛びそうで飛ばない。
草を踏めば香りが漂い、軽く歩けば芳りが流れる。
なめらかに輝く歌はとこしえに慕い、哀しい声はあまねく続く。

爾迺衆靈雑遝、命儔嘯侶。
或戯清流、或翔神渚。
或采明珠、或拾翠羽。
從南湘之二妃、携漢濱之游女。
歎匏瓜之無匹兮、詠牽牛之獨處。
揚輕袿之猗靡兮、翳脩袖以延佇。

神々はそこに集まり、歌って友を呼ぶ。
あるいは清流で戯れ、あるいは神の渚に飛翔する。
あるいは真珠を採り、あるいは翡翠の羽を拾う。
南湘の二人の妃は、漢水の女神と手を取り合う。
つれそいのない匏瓜(ほうか)のようだと嘆き、孤独な牽牛と歌う。
軽く揚げた上着はたおやかになびき、長い袖の影から招き佇む。

體迅飛鳧、飄忽若神。
陵波微歩、羅韈生塵。
動無常則、若危若安。
進止難期、若往若還。
轉眄流精、光潤玉顔。
含辭未吐、気若幽蘭。
華容婀娜、令我忘餐。

体は飛ぶ鳥よりも素早く、神のごとくにわかに舞い上がる。
波を踏んでかすかに歩み、薄い靴には塵が立つ。
動きは留まる事なく、危うくもあり、安からでもある。
進むか止まるかも分からず、往くようであり、戻るようでもある。
流し目から光を流し、宝玉のような顔は輝き潤う。
もの言いたげに語らず、幽蘭のような雰囲気。
華やかな姿はしなやかなで、私に食を忘れさせた。

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