漢水の女神の続きです。
余情悦其淑美兮、心振蕩而不怡。
無良媒以接懽兮、託微波而通辭。
願誠素之先達兮、解玉佩以要之。
嗟佳人之信脩兮、羌習禮而明詩。
抗瓊瑅以和予兮、指潜淵而爲期。
私の心はそのしとやかな美しさに悦び、胸は不安に震えて揺れる。
悦びを伝える良き術はなく、さざ波に託し言葉を届ける。
真心が彼女に伝わるよう願い、身に付けた玉を解きこれを求める。
ああ佳人の素晴らしきかな、奥ゆかしき礼をたしなみ詩に明るい。
美しき玉をかざして私と和み、深き淵を指さして契りをたてた。
執眷眷之款實兮、懼斯靈之我欺。
感交甫之棄言兮、悵猶豫而狐疑。
収和顔而靜志兮、申禮防以自持。
もてなされた慕情にとらわれ、女神が欺かぬかと慴れる。
甫が女神に約束を棄てられたのを思い、私はためらいに沈んで疑い嘆く。
顔を和やかに改めて心を静かにし、礼に従い自らを保った。
於是
洛靈感焉、倚傍徨。
神光離合、乍陰乍陽。
竦輕躯以鶴立、若將飛而未翔。
踐椒塗之郁烈、歩衡薄而流芳。
超長吟以永慕兮、声哀而弥長。
すると洛水の女神はこれを感じ、寄りかかって辺りをさまよう。
神の光は離れては近寄り、時に暗く時に明るい。
軽やかに体を伸ばして鶴のよう立ち、いまにも飛びそうで飛ばない。
草を踏めば香りが漂い、軽く歩けば芳りが流れる。
なめらかに輝く歌はとこしえに慕い、哀しい声はあまねく続く。
爾迺衆靈雑遝、命儔嘯侶。
或戯清流、或翔神渚。
或采明珠、或拾翠羽。
從南湘之二妃、携漢濱之游女。
歎匏瓜之無匹兮、詠牽牛之獨處。
揚輕袿之猗靡兮、翳脩袖以延佇。
神々はそこに集まり、歌って友を呼ぶ。
あるいは清流で戯れ、あるいは神の渚に飛翔する。
あるいは真珠を採り、あるいは翡翠の羽を拾う。
南湘の二人の妃は、漢水の女神と手を取り合う。
つれそいのない匏瓜(ほうか)のようだと嘆き、孤独な牽牛と歌う。
軽く揚げた上着はたおやかになびき、長い袖の影から招き佇む。
體迅飛鳧、飄忽若神。
陵波微歩、羅韈生塵。
動無常則、若危若安。
進止難期、若往若還。
轉眄流精、光潤玉顔。
含辭未吐、気若幽蘭。
華容婀娜、令我忘餐。
体は飛ぶ鳥よりも素早く、神のごとくにわかに舞い上がる。
波を踏んでかすかに歩み、薄い靴には塵が立つ。
動きは留まる事なく、危うくもあり、安からでもある。
進むか止まるかも分からず、往くようであり、戻るようでもある。
流し目から光を流し、宝玉のような顔は輝き潤う。
もの言いたげに語らず、幽蘭のような雰囲気。
華やかな姿はしなやかなで、私に食を忘れさせた。