『歴史』

古代ギリシアの歴史家ヘロドトス。
『歴史』を記して歴史の概念の成立に多大な影響を及ぼし、
歴史学・史学史において重要な人物の1人に挙げられ、
「歴史の父」とも呼ばれます。

完本として現存する最古の古代歴史書とされる『歴史』は、
ギリシア・バビロニア・エジプト・アナトリア・クリミア・ペルシア等の
古代史研究における基本史料の1つとされています。

アレクサンダー大王の200年以上前の人物で、
大王もこの書を学習したのでしょう。
大王の発揮した軍事的な才能を培う一端が
この書にあったのでしょうか。

『歴史』はギリシア全土を巻き込んだペルシア戦争をテーマとし、
人間の諸所の功業が時とともに忘れ去られ、
ギリシア人や異邦人が示した偉大で驚嘆すべき事柄の数々が、
とくに彼らがいかなる理由から戦い合う事になったのかが、
やがて世の人に語られなくなるのを恐れ、
書き述べたものであると冒頭で記しています。

彼は『歴史』を調査・探求(Ἱστορίαι、historia)の書と記し、
historiaがヒストリーの語源となったとされています。
historyをhis storyと神の物語とする説もありますが、
当事者や関係者がまだ存命中の出来事を記録したこの本は、
文献を読んで得られた知識から書かれたのではなく、
現地を回り自らの目で確認して関係者に聴取すると言う
足で稼いだ情報であったようです。

不足する情報は伝聞や証言により補われ、
自身が疑わしいと感じる情報であっても掲載し、
神話も信じられる人はそのまま受け入れればよく、
それぞれの人の語るところを聞いたまま記したとします。

彼の時代には歴史というジャンルが成立しておらず、
柿沼重剛氏はヘロドトス以前のhistoriaの意味する探求は
神話や系譜・地誌に関してであり、
これを人間界の出来事にまで広げた点が
特筆されるとしています。

歴史学者の大戸千之氏はヘロドトスを、
著作において執筆者とテーマを明示し、
自らできる限り調査する、情報を突き合わせ吟味・検討する、
調査結果を正確に報告し、直接的な情報と間接的な情報の弁別、
情報に対する評価、自分が信じる情報と信頼はしないが
重要な情報の区別を行うという調査研究手法を用いる等、
後の歴史研究の基本に通じる姿勢と評価しています。

古代ギリシアの偉大な歴史家にはもう1人、
トゥキュディデスが挙げられています。
使用する史料の選別を厳密に行い三人称で記述し、
伝統的に厳密・公正・客観的であると高く評価され、
ヘロドトスの「歴史の父」に対し、
「実証的歴史学の父」「科学的歴史学の祖」と
呼ばれていたようです。

トゥキュディデスはソースを明示せず、
複数の情報を取捨選択して自らが真実とする内容を
提供するケースが多いので、
どの様な研究を経て結論に至ったのか検討出来ず、
自らの推理を真実として語るのが問題視されています。

20世紀には文化人類学や社会学の方法が歴史学に取り入れられ、
多面的な研究がなされるようになってくると、
ヘロドトスの記述の価値が再評価されるようになったそうです。

歴史学を古代の事実の推理としている人もいますが、
ヘロドトスは大事な事が伝えられなくなる事に対して
書き残して伝える事を目的としており、
古代中国では温故知新で現代に生かす教訓として
歴史書が記されていました。

ディベートではコインを投げた結果で
肯定・否定のどちらも行える必要があり、
データ・根拠・主張・度合い・裏付け・例外を検討する
トゥールミンモデル等も開発されています。

日本は先進国で唯一歴史学部がない国と言われていますが、
日本の学校教育で行われている歴史の教育は断片的なもので、
もっと広く多面的に見直す必要のあり、
それにより現代や未来に対する見識も
豊かに培われる事になるのでしょう。

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