鬼を退治する桃太郎の伝説は有名ですが、
桃太郎が鬼ケ島へ出かけ岩を蹴飛ばすと、
中から柿太郎が出てきて一緒に鬼退治する
「柿本太郎譚」が存在するそうです。
おばあさんが川上から流れてきた柿を拾い、
割ったら女の子が出てきて柿木姫と言った
「柿本姐譚」も存在するとなると、
柿本と桃退治には何かしらの繋がりが
存在していてもおかしくはないでしょう。
古事記では黄泉の国から逃げるイザナギが
桃の実に助けられる神話がありますが、
柿には桃と同じ呪力があるとされ、
境界で発揮される呪力なので垣と関わり、
垣から柿になったとも見られています。
柿の木が門にあった事が柿本の名の由来とされ、
垣の出入口である門は境界を意味するので、
柿と桃は岩戸の神話に関わりそうです。
歌垣の「かき」は「懸け・掛け」が語源とされ、
いずれも境界に関わるものであり、
歌垣は境界としての門の垣本行われます。
境界で違う場所に住む者が歌により
意志を通わせるのが歌垣であるなら、
海辺や山上でよく行われたとされるのは、
異界とのコンタクトが暗示されるのでしょうか。
イザナギが千引岩を黄泉の国との境に置き、
イザナミと断絶する時に助言をした神は、
花祭で祭祀が行われる白山(シラヤマ)の
謎の神・菊理姫とされています。
花祭に登場する鬼神とのコンタクトを
歌によりなす事が出来た存在を
柿本の名で呼んだのであれば、
彼も鬼道に関係していそうです。
白山は新羅の花郎とも関係した神山で、
花祭の神で修験の開祖とされる役小角も
新羅との深い関係があったようです。
鬼退治が先住民族の鬼道との戦いを
伝承としてきたものであるならば、
壬申の乱と密接に関わるのが柿本で、
彼の伝承の中に先住民族王権の秘密が
隠されていないか調べたくなりますね。
柿が境界を意味するのであれば、
あの世とこの世の境界に関わる
岩戸開き神話が暗示されているのか、
この時期に太陽神も入れ替わっています。
古事記に通じる神話を保持してきた柿本を、
浅い解釈で理解できる訳ではなさそうです。
柿本人麻呂の残した歌の中には、
ヤマトの実相を暗号として残したものが
存在しているのかも知れません。